建築設計者の仲間内で評価の高い日本国内の建築を4回に分け、20挙げてみます。
出来るだけ客観的な選定とするため、
何らかの賞を受賞している事を最低条件としています。
■2011 ホキ美術館 日建設計
ホキ美術館は、先端が30m浮いた構造になっているチューブ状の構造が有名な建築です。先端技術と優れた意匠性が融合しており、BIMやさまざまなシミュレーションを取り入れる事で、シンプルで大胆な構成ながら、各作家の作品を観賞するための空間として音・熱・光の理想的な環境を実現しています。その先進性故に、建築としての主張は強いのですが、その殆どは、美術館として、建築本体が裏方に回り、存在感を消すための仕掛けになっています。
■2011 豊島美術館 西沢立衛建築設計事務所
豊島美術館は、水滴のような形をしており、ただ一つ、内藤礼による「母型」という作品が展示されている建築です。建築と作品が一体となってたもので、建物上部には二つの大きな穴によって、外気や太陽光が建物内部に入ってくる意匠になっており、周囲の環境や時間の経過により空間変化が行われます。水滴をイメージした建築は、広さ40m×60m、最高高さ4.5mの大空間に柱が1本もないコンクリート・シェル構造によって実現され、構造や施工の面でも注目を集めました。
■2010 岩見沢複合駅舎 ワークヴィジョンズ
岩見沢複合駅舎は、コンペティションの最優秀賞として実現した建築で、長い歴史を有する岩見沢の新しい駅舎として建築されました。随所に見られる透かし積み等によるレンガ壁は、機関庫や整備工場が建ち並ぶ明治期の岩見沢駅周辺をイメージしたものです。カーテンウォールの窓枠には、実際に使われていたレールを232本使用し、実際の線路とほぼ同じ1.1m間隔で配置され、鉄道によって発展した岩見沢の歴史を象徴している建築です。歴史性のある場の固有性を、現代の建築意匠としてさりげなく取り入れたものとして評価を得ています。
■2009 神奈川工科大学KAIT工房 石上純也建築設計事務所
神奈川工科大学KAIT工房は、305本の断面形状や方向性の異なる極めて細い柱で構成されています。柱の位置や形状は専用のCADやプログラムの活用によって決定されており、これらの柱は、一見、ランダムなように見えて実際は構造や空間の活用性等の、多様な要素を考えられて配置されています。X軸、Y軸の構造体、スパンや間取りというような設計過程からなる一般的な建築の設計プロセスでは実現不可能なこの建築は、抽象性の高い作品になっていますが、建築家の「もっと柱を細くする事もできたが、柱に見える大きさにした」という発言に表象されるように、奥ゆかしく、建築界にとって極めて重要な作品です。
■2009 千葉市立美浜打瀬小学校 シーラカンス アンド アソシエイツ他
千葉市立美浜打瀬小学校は、定型化しつつあった教育空間に対し、様々な新しい思潮を実現した学校建築です。時代の変化に応じて、子供の教育・生活空間としてに本来必要とされる空間が変化していることは明らかであり、そういった理論や論考が数多くありますが、実現した例は極めて少ないのが下乗です。建築としては素直で控えめな意匠でありながら、学校建築として極めてユニークな設計となっています。例えば、オープンスクールであるため、学校の出入り口に塀はなく、教室に仕切りもなく、チャイムも鳴りません。教育者側の思いと、建築家・研究者のコラボレーションによって達成された実例として、以後の教育空間の在り方に多大な影響を与えています。